Special #5
均衡を崩すことで生まれる美
– 日用品愛好家が語るDUENDEの魅力 –
日用品愛好家 渡辺平日氏インタビュー
このコーナーでは、ブランドの魅力を掘り下げるために、DUENDE愛好者にインタビューを行っています。
今回お話を伺うのは、2回目の登場となる日用品愛好家・渡辺平日さん。
様々な角度から「もの」と向き合っている平日さんが語る、DUENDEの魅力とは?
平日さん、今回もよろしくお願いします。前回のインタビューの最後に「新作を楽しみにしている」とおっしゃってましたよね。
「SOLID STEEL TABLE」のことですね。エッセーでも取り上げましたが、いや、実に奥深いプロダクトだと思います。
「少し変わったところがあるけど、基本的にはシンプルなサイドテーブルだということ」と書かれていましたが、まさに的を射た表現だと思いました。
「パッと見はシンプルなんだけど、よく見ると……」というパターンが多いですよね、DUENDEは。
このサイドテーブルでいうと、支柱の接合部なんかはものすごく攻めてますよね。良い意味で変態的というか。接合部をはじめて見た時、「こんなに薄くできるんだ」と驚きました。
その部分はかなりこだわりましたので、そう言っていただけて嬉しいです。
しかもそのこだわりが「エゴ」じゃないところが良いなと思います。普通だったら溶接するところを、あえてそうせず、分解できるつくりにする。コンパクトにできるから保管や配送のコストも下がりますし、使う側としても、引っ越しする時などには助かりますよね。
ただそういうメリットって、ネットで見るだけでは分かりにくいです。実店舗なら直接触れますが、その場で分解して確かめる、というのは難しいですし……。同じ空間によりキャッチーなアイテムがあれば、そちらに目移りしそうです。
おっしゃるとおりで、そのあたりは私たちの課題です。
特にSOLID STEEL TABLEはそういう傾向が強いですよね。パッと見はただのシンプルなサイドテーブルですから。
家に届いたパーツを組み立てて、それをリビングに置いてみる。そういう過程を踏まないことには魅力はなかなか伝わらないですよね。
――すぐに魅力が伝わってくるものと、ゆっくり魅力が伝わってくるもの。どちらが良いとは一概には言えませんが、経験上、後者のほうがずっと長く愛用できると思います。
すみません、ちょっと話が飛躍しますが大丈夫ですか?
はい、もちろんです。
最近、「美しさ」にもいろいろな種類があると気づいたんですね。近寄りがたい美しさとか、心を揺さぶられるような美しさとか……。もちろん美しさに違いがあることはなんとなく分かっていましたが、近頃になってやっと言語化できました。
それでSOLID STEEL TABLEはどうかというと、「ゾッとするような美しさ」を感じるんですね。一見、矛盾しているように思えますが、たしかにそう感じます。
プロダクトを見てゾッするのって、ほとんど経験したことはないですね。このサイドテーブルがはじめてかもしれません。芸術分野とかだとよくあるのですが。たとえば漫画家の市川春子さんの絵や作品からは、まさにそういう美しさを感じます。
うーむ、なるほど。なぜ渡辺さんは、そういう美しさを感じられるのでしょうか?
まだはっきりとしませんが、バランスの問題ではないかと思います。実物を見た時、アンビバレント(あるものに対して相反する感情を同時に持つこと)という言葉が浮かびました。
SOLID STEEL TABLEって、天板は雲のように柔和な印象なのに、脚部は建築物のように堅牢な印象ですよね。つまり見た目だけでいえば均衡が取れていない。
そのバランスの崩し加減がいい塩梅なんでしょうね。極端に表現すると、最初は心がざわざわとするのですが、ある程度時間が経つと落ち着いてきて、美しさが伝わってくるんです。「腑に落ちる」というのはまさにこのことですね。
あえてバランスを崩して美しさを引き出すのは、先ほどもおっしゃってましたが、絵画の世界ではよくある手法ですよね。あとは作家ものの食器とか花瓶とかでもそういう印象を持つことがあります。
なるほど。たしかに(SOLID STEEL TABLEは、)土物に近いところはあるかもしれません。
製作を手掛けた〈PERMANENT31〉さんは、「まるで粘土をこねるように」仕上げていったと話してました。もしかするとそのあたりが、美しさの秘密なのかもしれませんね。
非常に参考になります……。ちなみにPERMANENT31に関してですが、現在、新作づくりに取り組んでいる最中です。
そうなんですね! 粘土いじり、存分に楽しんでほしいです。
今回もありがとうございました。ディープなお話が聞けて楽しかったです。
なんだか小難しい話になってしまってすみません。なんだか喋りだすと止まらなくなりますね。
実は最近、陶芸を習い出したりイベントを開いたりと、かなり精力的に活動しています。そうやって自分の立ち位置が変わると、ものの見え方も変わったりして、とても興味深いです。
自分の立ち位置が変わると……。ちょっと表現が難しいのですが、以前は好きだったものが陳腐というか、つまらなく思えることもあります。
だけどDUENDEのプロダクト品に関しては、なんだか前よりもおもしろく感じます。それこそ陳腐な表現かもしれませんが、もっともっと掘り下げていきたいですね。
渡辺平日
日用品愛好家。古物商。大学を卒業後、インテリアショップに就職。仕事を通じて「もの」に対する知識や感性を養う。現在は雑貨やインテリアのレビュー、カフェやホテルの取材、プロダクトの開発など、多方面で活躍している。
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