Special #6-1

「どこかに『引っかかり』のあるものを」

神戸市のセレクトショップ「WEBO」
オーナー井村俊介氏インタビュー-前編-

2023年10月9日

「今、気になる人」に会いに行く企画がスタートします。今回の話し手は、神戸市でセレクトショップ「WEBO」を運営する井村俊介さん。

前編では、井村さんの製品に対する考えや、取り扱う商品についてお話しいただきます。聞き手は日用品愛好家の渡辺平日さんです。

井村 俊介:神戸芸術工科大学 プロダクトデザイン学科卒業。2002年、在学中にデザインのセレクトショップ「WEBO」を設立。現在はショップオーナー兼ディレクターを務めている。WEBOのコンセプトは「所有者が愛着を持って使えるモノ」。世界中のブランドから選りすぐったアイテムを取り扱っている。

「なにがWEBOらしいのか?」

井村さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。

実は最近、DUENDEのブランド運営の手伝いをしてまして……。今日はそういう立場からインタビューさせていただきます。

それにしても、お店に来るたびに、商品のセレクトに感心します。バイイングは井村さんが担当しているとのことで、井村さんのセンスはまさにWEBOの柱ですね。

井村俊介(以下、井村と表記)

大げさに聞こえるかもですが、それが生きる道という感じでしょうか。僕らのような個人店にとってはセレクトが一番大事なのかと。

店内の様子。〈ALESSI〉や〈BRAUN〉のような老舗ブランドから〈THE〉のような新興ブランドまで、幅広く取り扱っている。価格帯が幅広いのも特徴のひとつ。「一生に一度のお買い物」にも、ちょっとしたギフト選びにも、しっかりと応えてくれる。

なるほど。10年くらい前からWEBOを利用していますが、新商品を見て驚くことがあります。たとえば数千種類以上の製品を展開しているメーカーから、数種類だけ仕入れているのを見た時は、なんというかシビれました。

井村

「なにがWEBOらしいのか?」とか「WEBOに来るお客様がなにを求めているのか?」ということを考えると、必然的にそうなってしまうんです。取り扱う量が少ないので、メーカーさんには申し訳ないなと思うこともあります。

もし自分がメーカーだったら、ひとつでも扱ってもらえたら嬉しいと思いますよ。取り扱うアイテムを決める際、最も重視している要素はなんですか?

井村

いろいろとありますが、「普遍的な価値」を有しているかどうかは重視しますね。それに加えて、美しさとか使いやすさとか、譲れない要素は多いです。

 

「お客様に愛着を持って頂けるよう、丁寧にアイテムの魅力をお伝えしたい」と語る井村さん。魅力をしっかりと伝えるために、商品のレイアウトには特に気を配っているという。

井村

ただし、「良い商品」だけではおもしろくないとも思うんです。ちょっとは遊び心も欲しいなと。

僕たちの目的は上質な製品を広めることではありません。それはあくまでも手段であって、お客様の生活を豊かにするのが目的なんです。だから遊び心、言い換えると、どこかに「引っかかり」のあるものも扱うようにしています。

砂鉄が入った砂時計やコルクを利用した動物オブジェ、大理石でできたダンベル……。名作や定番品と一緒に並ぶこれらのアイテムは、空間に彩りと遊び心を与える。

 

詳しくありがとうございます。変なたとえかもしれませんが、シンプルで美しいものって、楽器でいうとベースやドラムに近い気がします。生活を底から支えるというか。それで、遊び心のあるアイテムは、ギターとかボーカルなのかなと。

井村

独特な表現ですね(笑)。でも言いたいことはなんとなく分かります。構成上は無くても(音楽が)成立するような楽器の音が、音楽を楽しむためには重要だったりしますよね。これからも様々な「音」の魅力をお伝えしたいと思っています。

 

 

 

商品のセレクトに関してですが、「このブランドの製品だから入荷する」というのは、きっとやらないですよね。

井村

まずしないですね。目で確かめて、手で確かめて、それから決めるようにしています。

やっぱり。そういうある種の厳しさって、WEBOへの信頼に繋がっていると思いますね。

 

 


「なるべく美しいものを」

それでは次に、井村さんについて質問していきます。ずばり聞きますが、商品を選ぶ感性やセンスは、ご両親譲りだったりするのでしょうか?

井村

うーん、そうですね。父親はそれなりにこだわるタイプでした。昔は一家に一台、固定電話がありましたが、わざわざ海外から取り寄せた電話機を使ってました。今は全然こだわってませんが(笑)

(笑)。多少の影響はあったけど、自分で感性を育んでいかれたのですね。何歳くらいのころからプロダクトに興味を持ち始めたのでしょうか?

井村

はっきりと意識したのは高校生のころで、プロダクトデザイナーという職業を知ったのがきっかけです。今ほど情報が無かったのもあって、当時は洋服を作る人のみがデザイナーだと思いこんでたんです。

その感覚、分かります。だいぶ昔の話ですが、コンビニのレジスターを見た時に「これも誰かがデザインしたのか」って、なんだか不思議な気持ちになりました。

井村

自分も「この製品はどんな意図でこんな形にしたんだろう」とかそういうことをよく考えてました。

 

 

 

高校卒業後、神戸芸術工科大学でプロダクトデザインを学ばれたと……。言うまでもなく、大学で得た知見は店づくりに活かされてますよね。

井村

学んだことは大きな糧になってます。特に空間を構成するときや商品をセレクトするときに実感しますね。

自分は普通の大学を卒業したので、どんな講義があるのか気になります。印象に残っている課題などはありますか?

井村

「エッグショックテスト」という玉子を使った課題が記憶に残っています。玉子を床に落としたら簡単に割れますよね。そこで、紙を利用して、玉子が割れないようにするんです。

なるほど。紙を緩衝材にするわけですね。

WEBOのロゴは玉子をモチーフにしている。「玉子は自然が生み出した究極のプロダクト。まさに機能美を体現した存在です」とは井村さんの談。

井村

ええ。とてもシンプルな課題ですが、その人の個性が出るんですよ。クシャクシャにした紙を使う人もいれば、けっこう凝った道具を作る人もいます。

たぶん井村さんは後者ですよね。

井村

当たってます(笑)。たとえ玉子が割れないという結果が同じであっても、なるべく美しいものをつくりたいです。

 

そのあたりの美意識は、WEBOの世界観づくりに活きているように感じます。

 

 

※※※後編は、後日公開予定です。※※※


WEBO公式サイト:

text : 渡辺平日 photo : 小出和明

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