Special #3-2

まるで二人で粘土をこねるように
– PERMANENT31が志向するものづくり –

デザインユニットPERMANENT31
インタビュー

text & photograph 渡辺平日

2022年11月10日

インダストリアルデザイナー・引間孝典と、DUENDEのブランドマネージャー・酒井浩二によるユニット。

スチールプロダクトのエンジニアリングを得意とする酒井の着想を、デザイナーの視点で引間がサポート。

 

それぞれの専門領域を行き来しながらプロダクトを開発している。「恒久」を意味するPERMANENTと、

ひと月の日数である 31を組み合わせ、毎日に寄り添い長く使い続けられる物の創出を目指し、PERMANENT31とした。

 

 

「これでいいんじゃない?」ではなく、「これでいこう」

 

今日はよろしくお願いします。
まずは〈PARMANENT31〉を結成するに至った経緯から伺わせてください。酒井さんと引間さんはもともとお知り合いだったんですよね?

酒井

ええ。ずいぶん昔になりますが、DUENDEから「MUKOU」というプロダクトを発売したこともあり、引間さんとは面識がありました。

 

一気に距離が縮まったのはけっこう最近です。2021年に引間さんが展示会を開催したので見に行ったんですよ。

酒井

そこで久しぶりに引間さんと会ったのですが、すっかり話し込んでしまって。どこか価値観が似ているというか、共鳴するものがあるなと感じたんですね。


MUKOU 引間孝典と鈴木正義によるデザインユニット〈PINTO〉が手掛けた傘立て。「サイレント」をコンセプトにした、ミニマルなデザインを特徴としている。


なるほど。
それで何度かやり取りしているうちに、「一緒にやろう」となったということですね。

引間

はい、そういう感じですね。何度か打ち合わせを重ねていくうちに二人のアイデアが混ざり合って、「ユニットとして取り組んだ方が自然だね」となったわけです。

 

酒井

そうだったね。彼とタッグを組めば、なにか納得ができるものがつくれそうだなと思いました。

 

引間

そう言っていただけて嬉しいです(笑)

酒井さんと僕は、一見違うタイプに思われるのですが、ある部分では、よく似ているなと感じています。

 

どんなところが似ているのでしょうか?

引間

いろいろとありますが、たとえばそうですね……。「見た目がよくても、ごまかしている部分があるものは好きじゃない」とか、そういう価値観は共通しています。

酒井

「これでいいんじゃない?」という姿勢を許さない部分とか似ているよね。「これでいこう」と自信を持てるまでは絶対に妥協しない。

 

仕事に対する姿勢が似通っていたのですね。あえてお伺いしますが、仕上がりなどに関して譲った部分はあったりしますか?

酒井

僕はないです。引間さんもないですよね?

引間

ないですね。

もしあったら黙ってはいられないタイプですから(笑)


 
「もしうまくいけば、これまでに見たことがないものになるんじゃないか」 

  

では、次の質問に入ります。このプロダクトを構築する上で一番悩んだ部分はどこですか?
 

酒井

やはり脚部の構造ですね。テーブルには必ず、天板を支持する脚や柱がありますが、その構造をどうするかで悩みに悩みました。

酒井

いろいろと検討していくうちに「スチールの無垢角棒だけで脚部をつくれないか?」と思い付きました。もしうまくいけば、これまでに見たことがないものになるんじゃないかと考えたんです。

 

引間

スチールの製品は普通、接合部がぼてっとしたり、ネジなどの金具が露出したりと、ごちゃついた印象になりがちなんです。

方このプロダクトはそういう部分がなく、とてもスッキリしています。

 

酒井

それでいて、それなりに重量があるので、見た目以上の安定感があるんですよ。――この脚部の仕上がりに関してはかなり満足しています。

酒井

少しマニアックな話になりますが、脚部は溶接せず、切削加工でつくってるんですよ。

引間

だから分解してこんなにコンパクトにできる。この構造は、製造や輸送の環境負荷を軽減するという視点でも、非常に理にかなっているんです。誇張抜きにして発明だと思っています。

 

 

見た目はスマートですが、いろいろなこだわりが詰まっているんですね。「スチールのスペシャリスト」である酒井さんだからこそできたのではないでしょうか。


丸でも四角でもなく、不定形になった理由

このプロダクトで一番議論したのはどこですか?
 

酒井

やっぱり天板のフォルムですかね。

引間

うん、天板の形についてはよく話し合いました。

酒井

それも「こっちの案に賛成」とか「こっちの案には反対」みたいなレベルじゃなくね。

「長く使われるためにはどういう形にするべきか?」というような、深いレベルでの議論を重ねました。

 

あの天板はそうやって生まれたのですね。
ちなみに、フォルムを不定形にするというアイデアは、初期からあったのでしょうか?

引間

いえ、実は天板のフォルムが決まったのは最後のほうなんですよ。

酒井

脚が決まったあとに天板のディテールについて話し合ったんです。最初はシンプルに丸とか四角の天板を当てはめてみたんですけど、どうにもしっくりこなかったんですよ。なんとなく味気ないというか。

脚がしっかりとしていますから、天板までソリッドにすると、決まりすぎるのかもしれませんね。

酒井

そうですね。それで定規やコンパスで引いたような形はやめて、フリーハンドで描いてみたらこれが意外なほどよくて……。もちろん人の手が加わっていますが、作為がなくていい形だなと。

 

なるほど。あのフォルムをはじめて見た時、
「まるで川の石の形みたいだ」と思ったのですが、酒井さんの話を聞いて納得するものがありました。

引間

渡辺さんの感覚、分かります。どこか自然物のようですよね。

引間

それにしても川の石っていい表現ですね。川の石って、上流から下流を旅するうちに、だんだんと角が取れて優しい形になりますよね。まさに自然にそうなっていくというか。

 

この天板の形もそれにちょっと似ている部分があります。というのも、テーブルを使う人の動作や行動を考慮していくうちに、だんだんと角が取れていって、今の大らかな形に落ち着いたんです。


  
「この形ならではの楽しみ方を見つけてほしいです」
 

酒井

天板のフォルムでいうと、前後で形が違うのもおもしろいと思います。どちらを前にするかで全然印象が変わるから、「今日はこの向きにしてみよう」というふうに、けっこう遊べるんですよ。

 

たしかに、そういうふうに使うのもいいですね。――今、使い方についてのお話しがありましたが、お二人はこの机をどういうふうに使ってほしいですか?

引間

SOLID STEEL TABLEは、使う人の自由な発想を引き出してくれるプロダクトだと思います。特定の場所や用途に限定せず、あれこれ試して、お部屋の雰囲気の変化を楽しんでもらえると嬉しいです。

 

 

たとえば和室で使うとか?
  

引間

それも素敵ですね。実は僕は「願わくば和も洋も関係なく調和するように」と考えながらものをつくっています。

 

SOLID STEEL TABLEは、かなりその理想に近いプロダクトに仕上がったと感じています。なのでお寺などにもけっこう似合うんじゃないかと思いますね。  

 

たしかに。お寺にあったらめちゃくちゃカッコいいでしょうね。ぜひ見てみたいです。こう、香炉とか置いたりして……。さて、酒井さんはいかがですか?
 

酒井

さっきもちょっと話しましたが、あれこれと試しながら使ってほしいですね。たとえばこのなめらかな面を、壁にくっつけるように設置してもおもしろいと思います。

そうか。その面はほぼ直線だから、そういうふうにも使えますね。

酒井

繰り返しになりますが、やはり不定形なのがこのテーブルの良さだと感じます。もし真ん丸だったらどう置いても同じでしょう?

この形ならではの楽しみ方を見つけてほしいですね。


 
まるでふたりで粘土をこねるように
 

今日は楽しいお話をありがとうございました。最後に、PARMANENT31の今後の展望を聞かせていただけますか?

酒井

これまでも追求してきましたが、さらに「無駄のなさ」を追求したいですね。それはデザインだけの話ではなくて、製造や輸送など、すべての面で無駄を減らしていきたいです。

 

「なにかをつくりたい」というよりは、まずはそれが我々の目標ですね。それを達成できるのであれば、なにをつくってもいいと考えています。

ということは、家具やインテリア以外も?

酒井

ありえると思いますね。もしかしたら家の外で使うものをつくるかもしれません。

なんだかワクワクしますね……!
では、引間さんはどうですか?

引間

うーん。PARMANENT31というよりは、まずは僕自身がどうしたいかという話になりそうですが、大丈夫そうですか?

もちろんです。

引間

あのですね、酒井さんと一緒にものをつくるのって本当におもしろいんですよ。

酒井

そうなの? ありがとうございます(笑)

引間

酒井さんは、僕の提案をさらに「尖らせて」くれるんですよ。「酒井さん、攻め攻めだな」 っていつも刺激をもらっています(笑)

 

それでいてバランス感覚もすごくて……。きちんと引くところは引くというか、「情熱」と「冷静」が同居している感じですね。一緒に仕事しながら、多くのものを学ばせてもらっています。

引間

自分は、相手がなにを考えてるのかということに、とても興味があります。相手のアイデアを正確に理解して、具現化することで、「そうそう!」となるあの感じ。

――あの瞬間のためにデザインしている感じがします。

 

酒井

引間さんってほんと吸い上げるのが上手なんですよ。引間さんと話していると、アイデアがどんどん良くなっていくんだよね。だから「言いがい」があるんですよ(笑)

引間

思い付いたことをどんどん言ってください。あれこれ考えてみたいです。

酒井

こんな感じでお互いがどんどんアイデアを出し合うから、「ここのデザインって誰が考えたっけ?」ってなりますね。そういう意味では二人で一人って感じですよ。混ざり合っちゃう感じ。

なんだろう、
二人で一緒に同じ粘土をこねているような……?

引間

ああ、まさにそんな感じですね。

(笑)。いやあ、ほんとうにいいユニットですね。次のプロダクトも楽しみです。今日はありがとうございました。
 

インタビュアー : 渡辺平日

日用品愛好家。大学を卒業後、インテリアショップに就職。仕事を通じて「もの」に対する知識や感性を養う。現在は雑貨やインテリアのレビュー、カフェやホテルの取材、プロダクトの開発など、多方面で活躍している。ライフワークは日用品屋巡り。

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