Special #10

本当に暮らしに必要なモノを作りたい。

-プロダクトデザイナー・引間孝典氏 インタビュー - 後編 -

text & photograph 渡辺平日

2024年10月13日

大手家電メーカーで働きつつ、フリーのプロダクトデザイナーとしても活動している引間孝典氏。アンブレラスタンド「MUKOU」、「SOLID STEEL TABLE」、「STEEL STORAGE WAGON」など、多数のDUENDE製品の開発に携わっている。後編ではDUENDEのブランドマネージャー・酒井浩二とのユニット〈PERMANENT31〉でのモノづくりについてお話しいただきます。

「ユーザーから本当に求められるものを」

最近の個人の仕事は〈PERMANENT31〉での活動が多いですよね。酒井さんとはどういうふうに仕事を進めているのでしょうか。所属されている会社のやり方とはずいぶん違うと思いますが。

PERMANENT31は、インダストリアルデザイナー・引間孝典と、DUENDEのブランドマネージャー・酒井浩二によるユニット。スチールプロダクトのエンジニアリングを得意とする酒井の着想を、デザイナーの視点で引間がサポート。それぞれの専門領域を行き来しながらプロダクトを開発している。

酒井さんとの仕事は、一言でいうととにかくスピーディーですね。なににおいても反応や判断が早いです。その働きぶりを見ていると「小回りのきくスポーツカー」みたいだと思ったりしますね。

あと酒井さんって、不安になったり弱気になったりして、停滞することがほとんど無いんです。弱気になる時間があるなら、その時間でひとつでも多くアイデアを出すという感じかなと。

自分も付き合いが長いから分かります。常にこう、なにかを考えているような……。一緒に街を歩いているとき、ベンチや街灯なんかを見て立ち止まることがよくあって。「なるほど。こういう構造もありかもな」みたいに分析し始めるんです。

酒井さんらしいですね(笑)。――酒井さんってプロダクトに限らず、あらゆる物事に興味を持っている人ですよね。人によっては一見、脈略が無いように見えるかもしれませんが、実はすべて酒井さんの中では繋がっている気がします。

僕はわりと大人しいというか、穏やかな印象を持たれることが多いんです。でも本当は常に脳を働かせて、あれこれと考えているタイプなんです。そういう意味では酒井さんと近いのかもしれません。

思いついたアイデアや感銘を受けた言葉を書き留める引間氏。すっかり習い性になっているという。
この「クセ」が彼の豊かなデザインの源泉になっているように思える。

あらゆるモノに興味を持っているから、安心してアイデアを提案できます。「前例が無い」とか「こんなのは売れない」みたいなことは言わないし、だいたいは「おもしれえな」と受け止めてくれます。

「おもしれえな」という感覚は、酒井さん、ひいてはDUENDEのモノづくりの根幹に関わるものですよね。そういう感性があるからこそ、独創的なプロダクトを次々に生み出せているのではないでしょうか。
 

「既に世の中にあるものを作っても意味がない」と本気で考えているからこそのラインナップですね。無難なプロダクトは絶対に作りたがりません。過去の名作や定番品など、様々な製品の「在り方」を尊重しつつ、「もっと他の在り方はないのか?」と追求し続けている人です。

だから前例が無いって言わないんでしょうね。既にあるモノを作ってもしょうがないと。
 

そうですね。置きに行くのではなく、唯一無二のプロダクトを生み出す。しかも「ユーザーから本当に求められるものを」と真剣に考えているように思えます。

「ユーザーがどう受け止めるか」をとても大事にしていますよね。

一緒に仕事をしていて強く感じますね。ああいう情熱的なタイプって、ややもすれば独りよがりになりがちですが、酒井さんはそうじゃない。「自分の思った通りにしたいのではなく、相手に喜んでもらいたい」という信念を持っているように感じます。

 

二人の打ち合わせの様子。忌憚なく意見を交わす姿が印象的だった。

こう考えると……酒井さんってかなり稀有な人物ですね。ただ燃えているだけではなく、冷静な部分も持ち合わせている人って、数少ないのではないでしょうか。

そうですね。打ち合わせの後によく、妻に酒井さんの話をするのですが、とてもおもしろがってくれるんですよ(笑)。凄まじいスピードで疾走しながら核心に迫っていくという、酒井さんのスタイルって誰が聞いても「すげえな」と感じる気がします。真似できないというか。でもそのまっすぐで軽やかな生き方は、周囲の人に良い影響を与えていると思います。

 


「これしかない」というところに着地していく

酒井さんを見ていると「本当にマルチな人だな」と感じます。設計はもちろん、商品企画から生産工程の管理、広報や営業まで、全部一人でやっているわけですから。

分業化とは無縁の人ですね。製品の取扱説明書も自分で作ってますから。

そんな細かいところまで……! 個人的にすごいと思うのが営業能力ですね。あちこちに商談に行ってるし、しかもほとんど毎回きれいにまとめてくる。
展示会にも力を入れていて、製品の選定やブースの設計はもちろん、一日中ブースに立って接客もしてますから。実にマルチというか、超人的というか。

2024年に開催された展示会のブース。DUENDEの世界観を余すことなく伝えるため、細かい部分まで作り込まれている。

こうやって話をしていると忘れてしまいそうになりますが、酒井さんの本業はエンジニアリング(設計)です。この分野についてはいかがでしょうか?

エンジニアリングに関しても高度なノウハウを持っていて、特にスチール家具に関する知見には目を見張るものがあります。――普通のエンジニアであれば、加工の難易度の高い部分を、生産しやすい形に置き換えてしまいがちなんですよ。

 

コストや歩留まり(使用した原料に対する、得られた生産量)を考えるとどうしてもそうなりますよね。

でも酒井さんの場合、デザインの意図も正しく理解しながら、生産性やコストパフォーマンスも考慮しながらギリギリの両立点を見出して、「これしかない」というところに着地していきます。
具体例を挙げると「STEEL STORAGE WAGON」の設計は見どころが多いですね。
このワゴンは収納スペースを広げるために薄い鉄板を採用しています。

 

木材を使う場合、強度を確保するために一定の厚みが必要になる。同じサイズのワゴンの場合、この厚みの差が収納量の差となる。

全体を薄いスチール板で構成することで、コンパクトながら収納力のあるワゴンとなりました。ただこのやり方だとサイドパネルの強度が足らず、横揺れするという課題が生じました。この問題を酒井さんは「サイドパネルの背面側に折り曲げを加える」ことで解決しました。

 

言葉にすると簡単そうに思えますが、これは素材の特性とデザインの重要性を理解していないと出てこない発想です。――こう考えると、酒井さんの一番の能力は、「物事の本質を瞬時に、かつ的確に捉え、それを少しも歪めない形でモノとして実現してしまう力」なのかもしれません。

同様の手法は「MARGE SHELF」でも使われており、鉄板を上下に折り曲げて強度を高めている。注目したいのは背面側の仕様。上側に折り曲げることで背板の役割も持たせている。


誰も見たことがない、体験したこともないモノ

今日のインタビューでは興味深く、そして楽しい話がたくさん飛び出しました。
それでは最後に、「引間さんが見るDUENDE」と、「今後、酒井さんとどんなモノを作っていきたいか」についてお聞かせいただけますか?
 

「普遍的でありつつ、唯一無二」。これがDUENDEの魅力だと思います。それらを強く意識して作り込まれているから、DUENDEのプロダクトは時代が変わっても求められ続けているのではないでしょうか。
あとは、オブジェのような美しさと、日用品としての実用性を両立させている点も特徴ではないでしょうか。美しさを探求していくことは、予算さえかければ難しいことではありません。でもそうすると、多くの人が気軽に使えるモノにはなり得ないですよね。

DUENDEのプロダクトは、そういった一部の人のためではありません、多くの人が長く使い続けられ、その暮らし自体を快適にしたりおもしろくしたりする――それがDUENDEの魅力ではないでしょうか。

詳しくありがとうございます。「普遍的でありつつ、唯一無二」という言葉、まさにその通りだと思います。
それでは最後の質問です。「今後、酒井さんとどんなモノを作っていきたいか」、いかがでしょうか?
 

酒井さんがこれまでの人生で培ってきた独自の哲学は、変なたとえかもしれませんが、「貴重な文化財」みたいなものだと感じています。

酒井さんの哲学は、DUENDEのラインナップで体現されていますが、まだまだ秘められた可能性があるように思います。

酒井さんの哲学を知る一人として、それを僕のアイデアやデザインを通じて、最大限引き出したいです。今よりもっと酒井さんに肉薄して、酒井さんと一緒じゃなきゃ生み出せなかったと思える製品を作りたいです。

 

なるほど。逆も然りというか、PERMANENT31の活動を通じて、引間さんの可能性も引き出されているように感じます。
――今冬に新製品を発表するということで、とても楽しみにしています。発売後にまたお話を聞かせてください。今日はありがとうございました。

インタビュアー : 渡辺平日

日用品愛好家。大学を卒業後、インテリアショップに就職。仕事を通じて「もの」に対する知識や感性を養う。現在は雑貨やインテリアのレビュー、カフェやホテルの取材、プロダクトの開発など、多方面で活躍している。ライフワークは日用品屋巡り。

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